この記事について

仕事を抱え込んでしまう方、部下や後輩への仕事の任せ方に悩んでいる方、「これは任せているのか丸投げなのか」の境目が分からない方、リーダーやマネージャーとして人を育てたい方に向けて書いています。

自分が若手だった頃、「仕事ができる」と感じた上司がいました。当時の自分は、その上司の仕事の渡し方を、正直「丸投げ」に近いものだと感じていました。ところが今振り返ると、あれは丸投げではなく、自分たちで考えて進める経験を与えてくれる「任せ方」だったのではないかと思うようになりました。今回は、その受け止め方の変化につながった経験を書いていきます。

「大体整理はしといたから、あとはよしなにやっといてー」

社会人4年目くらいの頃、その上司と初めて一緒に仕事をしました。ほぼ同年代の3人でチームを組み、上司から「大体整理はしといたから、あとはよしなにやっといてー」と仕事を任されました。

当時の自分は、正直これを丸投げに近いものだと感じていました。整理はしてくれているとはいえ、そこから先の進め方はほぼ自分たち次第だったからです。若手だけのチームだったこともあり、スケジュール通りに進められるかどうか、プレッシャーもそれなりにありました。

プレ稼働でプログラムが落ちた日

必死にスケジュール通り進め、いよいよプレ稼働を迎えました。その初日、早速プログラムが落ちました。原因は、先方から提示されていた仕様では想定されていなかったパターンが発生したことでした。

若手だけのチームだったこともあり、その場にいた全員がテンパってしまいました。何から手をつければいいのか分からず、頭が真っ白になっていたのを覚えています。

そのとき、上司がこう言いました。

「ま、こういうのはつきものだよ。とりあえず落ち着いて処理していこう。」

その一言で、場の空気が少し変わりました。そこから上司は冷静に状況を切り分け、必要な指示だけを淡々と出し、問題を解決していきました。上司は当時、自分たちが作っていたコードをかなり熟知していたのだと思います。だからこそ、問題が発生してもすぐに状況を把握し、冷静に対応できていたのでしょう。

今になって考える、一つの疑問

今になって、少し不思議に思うことがあります。もしかすると、上司はその仕様に怪しい部分があることを、最初から分かっていたのではないか。私たちが作っていたものを熟知していたからこそ、あの状況もある程度想定していたのではないか。

ただし、それが本当だったのかは、今となっては知る由もありません。本当にただの偶然だったのかもしれません。それでも当時を振り返ると、「あの人なら、そこまで考えていたのかもしれない」と思ってしまう自分がいます。

丸投げだと思っていたものが、実は経験を任せてくれていた

この一件を通じて、当時は丸投げだと思っていた「よしなにやっといて」という仕事の渡し方が、実は自分たちで考えて進める経験を与えてくれていたのかもしれない、と考えるようになりました。

整理された状態で渡された仕事を、自分たちの頭で組み立て直し、トラブルが起きたときには当事者として対応する。この一連の経験は、誰かに手取り足取り教えられてできるものではありません。任せてもらえたからこそ、自分たちで考えて進める感覚や、プレ稼働時のトラブルに冷静に対応することの重要性を、身をもって学べたのだと思います。当時は分からなかったことに、後から振り返って気づく。今回の話は、そういう視点の変化についての記事でもあります。

上司のすごさは、任せることそのものではなかった

改めて振り返ると、あの上司のすごさは、単に仕事を任せることそのものにあったのではないと思っています。任せた仕事の技術的な中身をきちんと理解していたこと、トラブルが起きたときにすぐ状況を把握できるだけの広い視野を持っていたこと、そして何より、部下に任せて失敗する可能性まで引き受ける、責任に対する余裕があったことです。

普通に考えれば、自分が最終的に責任を負う仕事を部下に任せ、失敗する可能性をあらかじめ許容するというのは、嫌なことのはずです。それでも、他人の成長のためにある程度自分が疲弊することを許容できる。この器の大きさや経験の差は、当時の自分にはとても真似できるものではないと感じますし、今振り返っても、素直にすごいと思う部分です。

「仕事を任せる」と「仕事を丸投げする」は同じではない

自分で仕事を抱えて処理すること、部下や後輩に仕事を丸投げすること、そして本人が越えられるハードルを見極めた上で仕事を任せること。この三つは、似ているようで全く別のものだと思っています。

抱え込めば、自分の負担は増える一方で、部下や後輩の成長機会は生まれません。かといって、何も考えずに丸投げしてしまえば、相手が越えられないハードルを押し付けてしまうリスクがあります。あの上司がやっていたのは、間違いなく後者の「丸投げ」ではありませんでした。整理まではしてくれていましたし、いざというときには自分の技術理解と経験でフォローに入れる状態を保っていました。

今、自分が仕事を任せるときに意識していること

現在、自分が部下や後輩に仕事を任せる際も、この経験から受け継いでいる考え方があります。単純にタスクを渡すのではなく、自分ならどの程度の時間でできるか、本人が越えられるハードルかどうか、そのハードルが高すぎないか、疲弊しすぎないか、本人の人間性やメンタル、本人への期待といったことを、総合的に考えて任せるようにしています。

失敗やストレスは、成長に必要な良いスパイスになる一方で、やり過ぎれば潰れる要因にもなります。あの上司が私たちに任せてくれた仕事も、今思えばぎりぎり越えられるくらいのハードルだったのだと思います。だからこそ、このバランスを意識することは、今の自分にとっても重要なテーマです。

まとめ

自分自身、あの上司のようにできているとは正直まだ言い切れません。それでも、あの経験があったからこそ、今は相手が越えられるハードルを見極め、少し背伸びが必要な仕事を任せ、必要なフォローを考えることを意識するようになりました。

当時は丸投げだと感じていた仕事の渡し方が、今振り返れば、自分で考えて進める経験を与えてくれていたのかもしれない。そう思えるようになったのは、自分自身が任せる立場になってからです。仕事を抱え込みがちな方や、任せ方に悩んでいる方にとって、何か参考になる部分があれば嬉しいです。