この記事について
リーダーやマネージャーになった方、部下や後輩への仕事の任せ方に悩んでいる方、自分で仕事を抱えてしまいがちな方、部下を成長させたいがどこまで任せればいいか分からない方に向けて書いています。
先に結論を書くと、私が仕事を任せるときに見ているのは、相手が「正解」を出せたかどうかではなく、どういう判断プロセスを経てその結論にたどり着いたかです。今回は、その考え方を実体験ベースで紹介します。
メンバーからリーダーになると、変数が一気に増える
ITの世界では、メンバーからリーダーになるだけでも、関わる人間の数と種類が大きく変わります。メンバーの頃は自分の作業だけを考えていればよかった状態から、顧客、メンバー、プロジェクト、会社など、複数の変数を同時に考慮しながら、自分自身がアクションを起こし、周囲にも働きかける必要が出てきます。
この変化に本人が早く慣れるためには、実際にその変数の多さを経験してもらうしかないと思っています。だからこそ、素養がある人にはできるだけ早く、上位の役割を経験させたいと考えています。
ただし、任せることと放置することは違います。任せた後も、進捗や判断の途中経過は見えるようにしておき、方向性が大きくズレそうなタイミングでだけ介入する。逐一口を出すのではなく、任せた範囲の中で本人が自分の判断を試せる余地を残しつつ、大きく崩れそうな場面ではフォローに回る。本人に任せる範囲を広げながら、こうしたフォロー体制も同時に考えておくことが前提です。
仕事を振る前に考えていること
自分から部下や後輩に仕事を振るとき、「分からないことの丸投げ」にならないようにしています。振る前には、自分だったらどの程度の時間でできる仕事なのか、それを任せることで本人の成長につながるのか、仕事として任せる意味があるのかを考えるようにしています。
「あなたがやった方が早くないですか?」と言われたことがあります。確かに、その時点だけを切り取れば、自分がやった方が早いことは当然あります。ただ、仕事を任せる目的は、現在の作業速度だけではありません。本人のステップアップや、担当できる範囲を広げることも、同じくらい大事な目的です。そのため、日頃から成果を出している人には、次第により難しい仕事や、関係者・変数の多い仕事を任せるようにしています。
見ているのは「正解」ではなく「判断」
ここが今回一番伝えたいところです。「部下には考えてから仕事を持ってこさせるべき」という話をよく聞きますが、私が重視しているのは「考えてから持ってこい」と言うこと自体ではありません。実際には、相手がどのような思考プロセスを経て、その判断に至ったのかを見ています。
PM・PL・マネージャーなど上位の役割になるほど、関係者や状況といった変数が増え、その中で結果や方針を出すことが求められます。相談すること自体は一つのプロセスであって、正解を知っていることそのものが重要なのではありません。客観的には間違っている判断であっても、結果が出れば後から正解になることもあります。現行踏襲のようなやり方も、その時点では正解だった可能性があります。ただ、周囲の変数が変わってしまえば、同じ方法がずっと正解であり続けるとは限りません。
だからこそ、最終的に私が重要な判断軸として扱っているのは、「何らかの答えを出し、その答えに責任を持って進められるか」という点です。正解を当てられたかどうかより、変数を踏まえた上でどう判断したか、そしてその判断に自分で責任を持てるかどうかを見ています。
これは「考えてから持ってこい」という言葉を額面通りに実践させることとは、似ているようで違います。ただ考えた形跡があればいいわけではなく、顧客の状況、メンバーの状態、プロジェクトの進み具合、会社としての方針といった変数のうち、何を踏まえて、何を捨てて、その結論に至ったのか。ここまで踏み込んで聞くようにしています。単純な教育論として「まず自分で考えろ」を押し付けても、変数の見落とし方は人によって違うので、本人が今どの変数を見えていて、どの変数が抜け落ちているのかを一緒に確認する方が、次に活きると感じています。
良かった点: 守備範囲が広がり、任せられる仕事の幅が見えてくる
こうした任せ方を続けてきて良かったのは、部下や後輩の現在の能力だけでなく、次に任せられる仕事の範囲を見極められるようになったことです。本人の守備範囲を広げられますし、素養のある人には早い段階から上位の役割を経験させることもできます。そして何より、任せる経験を積み重ねることで、本人がより多くの変数を考慮した意思決定をできるようになっていきます。
悪かった点: 完全に把握することはできない
一方で、任せる側が相手の能力を完全に把握することは、正直なところ難しいです。自分でやった方が早い場面は当然ありますし、任せた結果、期待していた成果にならないこともあります。それでも、任せる目的を「今の作業を早く終わらせること」だけに置いていないので、結果の濃淡はある程度織り込んだ上で任せるようにしています。
「自分でやった方が早い」との向き合い方
「自分がやった方が早いから、自分でやる」という考え方と、「分からないから任せる」という丸投げは、どちらも私が避けたい両極です。仕事を任せる際に重視しているのは、現在の作業を早く終わらせることではなく、本人の守備範囲を広げること、より大きな役割を担えるかを見ること、そして意思決定の経験を積ませることです。
この三つを意識するようになってから、任せることへの迷いはかなり減りました。目の前のスピードだけを基準にすると、結局いつまでも自分で抱え込む方が合理的に見えてしまいます。ですが、任せることの価値を「今日の速さ」ではなく「次に担える役割」で測るようにすると、判断の軸がぶれなくなります。
まとめ
仕事を任せるときに私が見ているのは、正解を出せたかどうかではなく、変数の多い状況の中でどう判断し、その判断にどう責任を持とうとしたかです。
- 振る前に、時間・成長・意味の3点を考える
- 「正解」ではなく「判断のプロセス」を評価する
- 現状踏襲も、変数が変われば正解ではなくなる
- 任せることと放置することは違う。フォロー体制とセットで考える
管理するというより、任せることで役割を広げ、次の役割を担える人を育てていく。そんな前向きなマネジメントを、これからも続けていきたいと思っています。