この記事について
「もっと考えて仕事をしろ」と言われるけど、何を考えればいいのかわからない方。指示待ちから抜け出したい若手・中堅の方。顧客や上司から信頼される仕事の進め方を知りたい方。思考力をキャリアアップにつなげたい方に向けて書いています。
先に結論を書くと、私がSI業界でエンジニアからマネージャーまで経験してきた中で、仕事で一番差がつくと感じているのは知識の量ではなく「考える習慣」です。ただし誤解してほしくないのは、考えることは目的ではなく、より良い結論を導くためのプロセスだということです。この記事では、私が大切にしている考え方として、その中身を紹介します。
「考える」と「答えを出す」は違う
「もっと考えろ」というフィードバックは、SI業界に限らずよく聞く言葉だと思います。ただ、この言葉自体は具体的な行動を示してくれないので、言われた側は何をどう変えればいいのかわからず、ただ悩む時間だけが増えてしまうことも多いのではないでしょうか。
私がここで大事にしているのは、「答えを出すこと」と「課題を整理すること」は別物だという区別です。目の前の要望に対してすぐに答えを出すのは、一見仕事が早いように見えます。ですが、その要望の裏にある本当の課題を捉えられていなければ、出した答えがどれだけ早くても、的外れになってしまう可能性があります。逆に、課題そのものを丁寧に整理できていれば、そこから導かれる答えは自然と精度が上がります。「考える」というのは、この課題整理のプロセスを指していると私は捉えています。
もう一つ大事にしているのは、考えることに時間をかけること自体には価値がない、という点です。経験を積むと、同じ種類の課題であれば判断のスピードは自然と上がっていきます。これも思考力の一つの形であって、時間をかけて悩むことが偉いわけではありません。大事なのは、早いか遅いかではなく、本当に解決すべき課題にたどり着けているかどうかです。
SI業界は特に、要件定義から開発、運用まで工程が長く、関わる人数も多い仕事です。工程の初期で課題設定を間違えると、その誤りが後工程まで引き継がれ、修正のコストがどんどん膨らんでいきます。逆に言えば、最初の課題整理さえ丁寧にできていれば、後の工程はその分スムーズに進みます。この構造も、私が「考えること」を重視するようになった理由の一つです。
きっかけは「若い頃の俺にそっくりだ」の一言
私がここまで「考えること」にこだわるようになったきっかけは、若手時代のある一言でした。ある先輩から「若い頃の俺にそっくりだ」と言われたことがあります。褒め言葉として言ってくれたのは間違いないのですが、私にはそれが「お前には自分らしさがない」と言われたように感じられました。
その言葉がずっと引っかかっていて、自分だけの価値を持ちたいと強く思うようになりました。技術力や経験年数といった、時間をかければ誰でも積み上がっていく軸だけでは、いずれ誰かと似たようなキャリアになってしまう。だとしたら、自分の考え方や課題への向き合い方そのものを、自分の価値にしていこうと決めたのが、このスタンスの出発点です。
当時は今ほど言語化できていたわけではなく、漠然とした危機感に近いものでした。ただ、振り返ってみると、この一言がなければ、目の前の要望に対して淡々と答えを出すだけのキャリアを歩んでいた可能性は高いと思います。技術者としての力量を磨くことと並行して、「自分はどう考えるか」を意識し続けてきたことが、今につながる分かれ道だったと感じています。
顧客の要望は、そのまま受け取らない
社会人になってから現在まで、この「考えること」を仕事の軸にし続けています。特に意識しているのが、顧客からの要望をそのまま受け取らないことです。
顧客から機能追加などの要望をもらったとき、すぐに「わかりました」とは言わないようにしています。代わりに、「本当に解決したい課題は何か」を、顧客と一緒に整理するところから始めます。
以前、コストが課題だと思われていた案件がありました。表面的にはコスト削減の話として持ち込まれていたのですが、対話を重ねて背景を整理していくと、実際に顧客が抱えていたのは将来への不安だったということがわかりました。コストという数字はわかりやすい指標なので、課題が言語化される過程でそこに落とし込まれていただけで、本質的な課題は別のところにあったわけです。表面的な要望をそのまま実現していたら、この本質的な課題には気づけなかったと思います。
こうした場面で意識しているのは、相手の言葉をそのまま鵜呑みにしないことと、相手を疑うことはまったく別物だという点です。顧客が「コストが課題だ」と言うとき、それは嘘ではなく、その時点で顧客自身が言語化できる形がそれしかなかっただけのことが多いです。だからこそ、否定から入るのではなく、「なぜそう感じているのか」を一緒に掘り下げていく対話のスタンスが重要になります。
メンバーに対しても、答えではなく一緒に考える
この姿勢は、顧客に対してだけでなく、マネジメントするメンバーに対しても同じです。メンバーから相談を受けたときも、答えをそのまま教えるのではなく、一緒に課題を整理し、本人が納得できる結論にたどり着けるよう関わることを意識しています。
答えだけを渡してしまうと、その場では解決しても、次に似たような場面に出会ったとき、また誰かに答えを求めることになってしまいます。一緒に課題を整理するプロセスを経験してもらうことで、本人の中に「考える型」が少しずつ残っていく。そちらの方が、長い目で見てメンバー自身のためになると考えています。
マネージャーという立場になると、自分がすぐに答えを出せる場面は正直たくさんあります。経験を積んでいる分、判断のスピードでは有利だからです。ただ、そこで安易に答えを渡し続けてしまうと、チーム全体としての考える力はいつまで経っても育ちません。エンジニアからマネージャーへと役割が変わる中で、自分の判断の速さをどう使うかも、意識して切り替えてきた部分です。
良かったこと: 「一緒に考えてくれる人」としての信頼
この姿勢を続けてきて良かったと感じるのは、顧客から「まず相談したい」と思ってもらえる機会が増えたことです。要望を右から左に実現するだけの相手ではなく、一緒に課題を整理してくれる相手として見てもらえるようになったのは、大きな変化でした。
メンバーとの関係でも同じで、業務上の相談だけでなく、キャリアの相談を受けることも増えました。「言われたことをやる人」ではなく、「一緒に考えてくれる人」として信頼してもらえるようになったことが、この働き方を続けてきて一番の収穫だと感じています。
信頼というのは、一度の成果で得られるものではなく、こうした小さなやり取りの積み重ねでしか育たないものだと思っています。派手な実績よりも、日々の対話の中で「この人はちゃんと自分ごととして考えてくれる」と感じてもらえるかどうかの方が、長期的な関係の質を左右している実感があります。
遠回りに見えることもある
もちろん、良いことばかりではありません。要望をそのまま受け入れず、課題整理から始めるやり方は、最初は遠回りに見られることもあります。「早くやってほしいだけなのに、なぜ確認ばかりするのか」と感じさせてしまう場面も正直あります。
相手と認識を合わせるための対話にも、それなりに時間を使います。効率だけを見れば、言われたことをそのまま実行する方が速い場面も多いはずです。それでも、目先のスピードよりも、本質的な課題にたどり着くことの方を優先したいと考えているので、この遠回りは必要なコストだと割り切っています。
もちろん、あらゆる場面で課題整理から入るべきだとも思っていません。緊急性が高く、明らかに答えが一つしかないような場面では、余計な対話を挟まずすぐに動くべきです。使い分けの基準は、その要望の背景に、まだ言語化されていない前提や優先順位のズレがありそうかどうか。そう感じたときだけ、あえて立ち止まって課題整理から始めるようにしています。
「言われたことを実現する働き方」との違い
改めて整理すると、私が選んでいるのは「言われたことを実現する働き方」ではなく、「本質的な課題を考え、提案する働き方」です。前者は指示に対する応答速度で評価されますが、後者は指示の前提そのものを問い直すところから始まります。
どちらが優れているという話ではありません。ただ、顧客にもメンバーにも共通して言えるのは、相手が本当に求めているのは「言われた通りに動いてくれること」ではなく、「一緒に考え、納得できる結論を導いてくれること」である場面が、私の経験では圧倒的に多かったということです。
これは知識量の多さとは別の軸の話です。知識は、その分野について知っているかどうかの話でしかありませんが、考える姿勢は、知らない分野に対しても発揮できます。エンジニアからマネージャーへとキャリアが広がっていく中で、自分の専門外の課題に向き合う場面はむしろ増えていきました。そのたびに助けてくれたのは、個別の知識ではなく、「何が本質的な課題か」を整理する型の方だったというのが、実感としてあります。この積み重ねが、結果として信頼につながり、今のキャリアを支えてくれていると感じています。
まとめ
考える習慣は、頭の良さではなく姿勢だと思っています。
「なぜそう思うのか」「本当に解決すべき課題は何か」「他に選択肢はないか」。
この問いを持ち続けるだけで、仕事の見え方は少しずつ変わります。
私自身、まだ考え続ける途中ですが、この習慣こそが今のキャリアを支えてくれた一番大きな財産だと感じています。