この記事について
仕事で「分からない」と言うことに抵抗がある方、新人や若手の方、仕事の判断が遅くなりがちな方、顧客とのコミュニケーションに悩んでいる方に向けて書いています。
先に結論を書くと、大事なのは「分からない」と言えることそのものではなく、「自分が分かっていない状態を認識できること」だと思っています。分かっていないと認識できた瞬間に、次にやるべき行動(調べる・聞く・確認する)が決まります。だからこそ、結果的に仕事が速くなる。これが今回一番伝えたいことです。
「分からない」と言うのが恥ずかしかった頃
ITエンジニアとして顧客と仕事をする中で、この考え方に気づいたのは、リーダーになり始めた頃でした。それまでの自分は、「分からない」と言うことが単純に恥ずかしいと感じていました。リーダーという立場になったのだから、知らないことがあってはいけない、そんな思い込みがあったんだと思います。
その結果どうなったかというと、知っているように振る舞おうとして、一人で調べたり考え込んだりしてしまうことが増えました。素直に聞けば数分で終わることを、自分だけで解決しようとして、結果的に遠回りになる。今振り返ると、かなり効率の悪いやり方をしていました。
厄介なのは、この状態の当人はあまり自覚がないことです。「調べている」「考えている」という体裁は整っているので、サボっているつもりはまったくありません。ただ、その調べ方や考え方の方向性自体がズレていた場合、時間をかければかけるほど、間違った方向に進んでしまいます。当時の自分は、まさにこの状態にありました。
痛い目を見た、ある失敗
この考え方が変わるきっかけになった、具体的な失敗があります。
新しい顧客を担当したとき、その顧客の業務知識を十分に理解していない状態のまま、自分なりに解釈して提案を作成してしまったことがありました。分からない部分を素直に確認すればよかったのですが、当時の自分はそれをせず、なんとなくの理解で進めてしまったんです。
結果、後から認識が違っていたことが分かり、それまでにかけた時間の多くを無駄にしてしまいました。作り直しにも時間がかかりましたし、何より顧客に対しても、余計な手戻りをさせてしまう形になりました。振り返ってみると、分からないと感じた時点で一言確認していれば、その場で解決していたはずの話です。それを自分の解釈だけで進めてしまったせいで、後になってから大きな手戻りとして返ってきた。この経験から、「もっと早く聞けばよかった」と強く感じたのを覚えています。
それから変えたこと: 仮説を持って聞く
この失敗以降、意識的に変えたのが質問の仕方です。何も考えずに「教えてください」と聞くのではなく、一般論や事前調査を自分なりに行った上で、「私の理解ではこう考えています。ただ、この部分だけ分からないので教えていただけますか」という形で質問するようにしました。
分からないことを隠したまま手探りで進める働き方と、何も考えずにとりあえず聞く姿勢。この二つの間には、大きな違いがあると思っています。前者は認識違いに気づけないまま進んでしまうリスクがあり、後者は自分で考える工程を飛ばしてしまっている分、相手の負担も大きくなります。「何もかも教えてください」と丸投げされると、相手はどこから説明すればいいのか判断できず、結局は一から十まで説明する羽目になります。仮説を先に示した上で、分からない部分だけをピンポイントで確認する。この形が、自分にとっても相手にとっても一番負担の少ない聞き方だと感じています。
変えたことで起きた変化
この聞き方に変えてから、いくつかの変化がありました。
まず、認識違いによる手戻りが明確に減りました。自分の理解を先に共有することで、ズレがあればその場で指摘してもらえるからです。顧客とのコミュニケーションもスムーズになりました。仮説を示しながら質問すると、相手も何を確認したいのかが分かりやすく、会話のテンポが良くなります。そして、必要な情報を早く集められるようになったことで、判断や提案のスピードそのものも上がりました。
なぜ「認識できること」が仕事の速さにつながるのか
ここで改めて伝えたいのは、「分からない」と言えること自体が偉いわけではない、ということです。大事なのは、自分が今どこまで分かっていて、どこから先が分かっていないのかを、自分自身で認識できることです。
分かっていない状態を認識できていないと、そもそも何を調べればいいのか、誰に何を聞けばいいのかすら分かりません。逆に、分かっていない部分がはっきりしていれば、次にやるべき行動(調べる・聞く・確認する)がその場で決まります。この「次の行動がすぐ決まる」ことこそが、仕事のスピードを左右しているんだと思います。曖昧なまま抱え込んでいる時間が、一番の遠回りです。
言い換えると、「分からない」は終着点ではなく、次のアクションへの入り口です。分からないと自覚した瞬間に、調べるのか、誰かに聞くのか、それとも一旦保留にして確認を挟むのか、選択肢が具体的に見えてきます。逆に、分かったつもりのまま進んでしまうと、この分岐点そのものが見えないまま突き進んでしまうことになります。
顧客は「聞かれること」を意外と嬉しく思っている
実際に関わってきた顧客を振り返ると、自分の業務に誇りを持っている方が多かった印象があります。そういう方に興味を持って質問すると、嬉しそうに教えてくださることがよくありました。
分からないことを聞くのは、相手に迷惑をかける行為だと思い込みがちですが、実際は逆であることも多いです。自分の仕事や専門領域に関心を持ってもらえること自体を、ポジティブに受け止めてくれる人は少なくありません。
まとめ
「分からない」と言うことに抵抗がある方は、まず「自分がどこまで分かっていて、どこから先が分からないのか」を認識することから始めてみてください。それさえできれば、次にやるべきことは自然と見えてきます。
あなたの職場にも、その仕事に誇りを持っている人はいませんか。意外と頼られることを待っている人もいるかもしれません。